世界の育成事情
担当者 根引
今回はスペイン アスレチック・ビルバオの育成についてお話、紹介させてもらいます。 アスレチック・ビルバオは、創立110年以上の歴史を持ち、コパ・デル・レイ優勝24回を誇る名門クラブの1つです。タイトル以上にクラブの誇りとなっているのが2部降格を経験していないこと。ビルバオ以外ではバルセロナとRマドリーしかない。「バスクの雄」と呼ばれる所以はそこにあるのかもしれません。 また、「バスク純血主義」をクラブ哲学に挙げ、近年のサッカー界においては稀なバスク人のみでチームづくりを貫いています。 総人口300万人以下の地域のみでチームを作っているということで、日本で例えるなら、サンフレッチェ広島が総人口280万人の広島県で育った選手のみでチームを作り、J2への降格なくJ1の強豪クラブとして戦い続けているようなものです。
そのためビルバオにとって育成はクラブの未来を大きく左右するどころか、未来そのものと言えます。 クラブの人たちは、「レセマはクラブの心臓部」と言っています。レセマとは「カンテラ(下部組織)」の総称で、年間予算における育成費の割合はなんと6分の1で金額にすると約11億5000万円です。スペインの他のクラブでも総予算の10%以上を育成費に充てるクラブはありません。
レセマの育成力の高さを支える特徴として3つ挙げられます。 1つ目は、選手のスカウティング・システム。育成部ではバスクの他クラブでプレーしている約3000人の選手たちの動向を継続的にチェックしている。ただし、スカウトの数、マンパワーには限界があるため、より正確な情報を把握するためにビルバオ主催の練習会を行っている。 2つ目の特長は、指導者養成。ビルバオらしい指導者として育成に携わってもらうため、レセマにはトレーニング・メニューを専門に扱うスタッフがいます。そのスタッフがトレーニングの具体案を提供したり、監督と面談をしたり、ミーティングを行う。監督はそのスタッフが用意するメニューを用いながらオーガナイズし、トレーニングを行う。トレーニング後には、「トレーニング・レポート」を提出する義務がある。それを専門スタッフやディレクター職の人間がチェックしながら日常的、継続的に監督のレベルアップとトレーニングメニューの改良を目指している。 3つ目の特長は練習環境です。 天然芝4面、人工芝2面、体育館、室内ジム、ロッカーなどがあります。この環境自体はリーガ1部のクラブの平均的です。 しかし、ほかのクラブに先駆けて導入されていることがあります。最新のビデオシステムが完備されていて、レセマの練習場では、グランドの照明塔にビデオカメラが設置されており、監督が希望すれば練習の様子を撮影でき、編集することもできます。またトレーニングメニュー専門スタッフは、リアルタイムでこの映像をチェックしています。 そしてクラブオフィスには、心理カウンセラーが常駐し、選手やその家族の精神的ケアを担当するそうです。驚くことに指導者もカウンセラーを積極的に活用しているということです。
一面的な見方をすれば、外から選手を補強できないビルバオのクラブ哲学は今のサッカー界を生き抜く上ではマイナスなのかも知れませんが、ビルバオにはその条件を逆手にとって育成を強化する具体的な策が充実しています。 日本のクラブからすれば信じられないほどの予算が育成に費やされているとはいえ、レセマで行われている考え抜かれた質の高い取り組みと継続性こそがアスレチック・ビルバオの育成の根幹を支えているといえます。
今日のサッカー界において《育成》は非常に注目されています。自分たちもこのようなクラブに負けない情熱とパワーをもって日々精進していきたいと思います。
※今回紹介させていただいた話は、「ヨーロッパ育成最前線」ベースボールマガジン社より一部、抜粋しております。興味のある方はぜひ一度読んでみてください。、