『せっかく』
担当:大重正人
午前練習を終えた選手たちが、食事もそこそこに、アウェイアップルーム、兼監督会見場、兼ミーティングルームに集まってきました。今日は、Jリーグキャリアサポートセンターによる「キャリア交流会」が開催されました。どんな選手だっていつかは第二の人生を歩むときが来るわけですから、その時に備えて、学校に通ったり、職業体験をしたり、先輩たちがどんなセカンドキャリアを暮らしているのかを紹介したり。Jリーグは選手たちの人生がこの先さらに広がるように支援しているのです。
まずは、インターンシップ制度の紹介VTRが流れました。そのなかにはレイソルの石川・大河原両選手が登場。昨年オフに温泉地の老舗旅館で接客業務にチャレンジした模様です。見なれない群青色の着物姿や「足下にお気をつけ下さい」というピッチ上では絶対にありえない言葉使いなど、彼らの意外な姿に笑いが起こっていました。しかし短い映像の中でも、しっかりとお辞儀してお客様を見送ったり、ていねいに料理を運んだりと、慣れない仕事にも懸命にチャレンジしている様子がしっかりと伝わってきました。実直な二人ならではの仕事振りでした!
そしてもう1人、あの岡山選手も!社台ファームという日本最大のサラブレッド生産牧場で、馬の管理、育成のお手伝いをしたレポートです。現在も活躍しているG?ホース、ダイワメジャー&ダイワスカーレット兄妹を輩出した母馬スカーレットブーケを引きながら「むかしメッチャ好きやったんで、ホント良かったです」とますます目を細めていました。趣味と実益を兼ねて(!?)、自らリクエストした牧場体験に大満足の様子でした。
そしてメインイベントは、、、スポーツで成功し、さらに充実した第二の人生を歩んでいる、偉大な先輩の講演です。この日のゲストは、有森裕子さん。岡山県出身の私にとって、有森さんは故郷の誇るべき偉人です。日本女子マラソンを世界に知らしめた先駆者で、バルセロナ、アトランタ五輪と連続して銅メダルを獲得したスーパーアスリートです。そのなかで、いくつも印象的な言葉を選手たちに残してくださいました。例えば。。。
★(今後第二の人生へ進むときに)「サッカーしかやってこなかった」という発想では世界が狭くなる。「サッカーを必死にやってきたんだ!」と自負して挑戦することで、世界はひらけてくる。
★相手が自分の思い通りに動いてくれないとき、相手のせいにしてはいけない。なぜそのように振舞うのか、自分に原因があるのでは?と考えてみる。そうすれば状況は絶対によくなるはず。
★相手に伝えるだけじゃダメ。伝わらないと意味がない。
★自分の人生は自分自身で考えなければいけない。競技力だけじゃなくて人間力も高めてください。
そして有森さんが「いま故障している人はいますか?」と呼びかけました。
「私もいろいろと故障して苦しいときもありました。そのとき小出監督に言われたんです。『せっかく故障したんだから』と」。
せっかく、という言葉をつけると、前向きなポジティブな考え方に変わると。時間ができるはずだから、いろいろなことを考えてみてくださいとアドバイスしていました。
右足ふくらはぎの肉離れで戦列を離れた藏川選手。少しずつですが、運動を始めています。しっかりとテーピングして、酒井トレーナーとゆっくりとウォーキング&軽いジョグ。みれば真っ黒のウェアを着ています。ここ2日間続いている夏のような猛暑のなかにもかかわらず。冬場に着るようなウインドブレーカーと言いますか、「汗取り」です。
「汗をいっぱい出して、気分だけでも運動した感じになりたくて」。練習でも試合でもあれだけ走り続けている藏川選手ですから、身体を動かさないとなんとも落ち着かないといった様子でした。藏川選手をはじめ、頑張りたくても走れなくてこらえているほかの選手たちにとっても、こんな時に「せっかく」と切り替えて考えることは、当然簡単ではありません。でも、少しでも、心のケアに、ポジティブシンキングに繋がれば、と思わずにはいられません。