神戸戦
担当:大重正人
非常にタフな試合、どちらに転がるか分からない難しい試合を、最後の最後に制しました。ベンチメンバーも含めたチーム全員の総力戦で、強敵ヴィッセルを上回りました。
イニエスタ選手が前半20分ほどで交代するアクシデント。一人のサッカーファンとしては、その世界最高峰のプレーを少しでも長く見てみたいという思いもありましたし、選手たちは一緒のピッチで全力で戦うことに喜びを感じ、そして勝ちたいという思いもあったことでしょう。ただ、イニエスタ選手が退いた後も、ヴィッセルの優勢、レイソルが粘るという前半が続きました。
その前半、高橋峻希選手の戦う姿勢が何度も飛び込んできました。ヴィッセルが左サイドの酒井選手を開かせて、そこにサイドチェンジのボールを送り、仕掛けてくるという狙いが見えました。そのマッチアップ、非常に見応えがありました。1対1の守備はもちろん、攻撃になった際のランニング、ドリブルで長駆持ち上がる積極的なプレー、そこに戻ってきた酒井選手と激しく接触しながらまた立ち上がってゴールへ向かう。試合のどこまで行けるかわからないけど、持てる力を出し惜しみせず、とにかく全力を出す、走る。古巣のピッチで躍動しました。そんな姿勢は、高橋選手はもちろん、途中交代となった瀬川選手、大谷選手、そして仲間選手もそうです。一人一人がそうして高いインテンシティを出し続けたからこそ、最後の結果につながったと思います。
「前半は守備のラインが低くなってしまったので、後半は自分たちのスタンダードを出していくこと、高い位置からプレッシングに出ていくことを求めた」というネルシーニョ監督の指示、そしてサヴィオ選手の投入という策がいきなり奏功し、仲間選手らしいなだれこむような同点ゴールが生まれます。
「ちょっとしたことだが、後半は全員の前に行く意識が一つになったことが大きかった。前向きのプレーが多くなればなるほどゴールへ向かうスプリントやランニングが増えるので、それが上手くゴールにつながったと思う。(得点シーンは)ニアでつぶれてくれる選手の後ろには誰かがいないとチャンスもチャンスではなくなってしまうのでそこは意識していた」
そして、77分。圧巻のゴールが生まれました。途中出場の北爪選手、戸嶋選手が右サイドから素晴らしいスピードや走力で攻撃の迫力を生み出していた中、ついにミカにビッグチャンスが。対峙した元レイソルの渡部選手も大型で非常にパワーのある選手です。少しトラップが流れ、両者の足とボールがぶつかった時、それは物凄い衝撃音がスタジアムに響きました。そしてナベも負けていなかったと思います。ただ、そのあとのリカバリーはミカの方が早かった。得意の左足で前に運び、カバーに来た2枚のDFを交わすときのスピードとストライドの大きさ、そして強烈なシュート。ミカの凄さがこれ以上なく発揮されたスーパーゴールでした。これで7試合連続ゴール、あと一つでJ記録に並びます。
「エリアに向かってスプリントしたところでサチ(戸嶋)から良いボールが来て、ファーストタッチはあまり良くなくて相手と交錯する形になったが、そこでうまく相手を交わすことができた。二人目のディフェンダーが向ってきたが少し角度のないところからニアを狙うことで決めることができた」
しかし試合は終わりませんでした。89分、神戸の同点ゴールは、リプレーを見る限り、オフサイドに映りました。レイソルの選手たちがあれだけ長く抗議するのは珍しいことで、我々に取っては受け入れがたい状況、でもそれをグッと飲み込んで諦めなかったからこそ、アディショナルの5分間に、ドラマでも書けないような奇跡的なエンディングを生み出しました。
「高校卒業から10年以上いたチームなので特別な思いはあった。でも、いつも通りやろうと思って試合に入った」。選手紹介やピッチインの際に、ノエスタのサポーターから温かな拍手に包まれ、三原雅俊選手がこの神戸で愛されていたことを改めて実感しました。「一度追いつかれたが、チームとしてカウンターでチャンスを作れていたので、1本チャンスを決めようという雰囲気はあった」。2017年4月の大津選手の劇的なゴールが頭をよぎるような雰囲気はありました。
再三チャンスに絡んでいた戸嶋選手のランニングを見逃さす「クロスのつもりだった」というペナルティエリアへのボールは、GKとのあいだ、絶妙な弧を描いてゴールネットに吸い込まれました。古巣で、あの時間に決勝点をきめ、そして「ネンイチです」という三原ロールをこの神戸で披露することになろうとは。アタルに声をかけられ、ハッと思い出したように回り始めた光景。あえて真顔でやっているんです、と教えてくれたことがありましたが、この日は晴れやかな笑顔でしたね。想像を超える出来事、本当に嬉しかったですね。
先制され、逆転した所で、際どい判定で失点し、それを覆すアディショナルタイムでの決勝点。間違いなく勢いの出る勝ち方のはずです。歓喜のロッカールームで「次も連戦、大分もあるぞ」という声も聞かれました。この勝利を次の勝利へ。弾みをつけていきたい素晴らしい試合でした。